2035年の日本社会予想【経済とお金】

2035年

これは2026年時点のトレンドから筋道を立てた予想であり、確定した未来ではありません。

2035年の日本経済は、「人口減少・高齢化という長い下り坂」と「賃金と物価がともに上がる新しい常態」という、方向の異なる二つの力がせめぎ合う局面を迎えていると考えられる。デフレ脱却が語られてから十数年、2026年時点でようやく定着しかけた「賃上げの循環」が、2035年までにどこまで家計の実感につながるのか。本稿では、対象年である2035年の日本経済とお金の姿を、成長・賃金・労働・財政・個人資産という五つの角度から具体的に予想していく。

2035年の日本経済の全体像 ── 低成長でも「縮小」しない経済へ

まず全体像である。国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計によれば、2035年の日本の総人口は約1億1,600万人まで減り、65歳以上が全体の32.3%(約3,700万人)を占める。生産年齢人口(15〜64歳)は57.6%、子ども(0〜14歳)はわずか10.0%だ。人口という「数」の面では、日本経済は明確な減少局面にある。

にもかかわらず、経済規模そのものは緩やかにでも拡大を続ける可能性が高い。複数の中期見通しでは、2031〜2035年度の実質GDP成長率は年平均+0.8%程度と、テンポは鈍いながらプラスを保つと試算されている。人口が減るなかで経済が横ばい以上を維持できるとすれば、その原動力は「一人あたりの生産性」の上昇にほかならない。AI・ロボットによる省力化投資、値上げを前提とした価格設定への転換、そして後述する高齢者・女性の就業拡大が、頭数の減少を補うと考えられる。

つまり2035年の日本経済は、「派手に成長する経済」ではなく、「縮まないように全員で漕ぎ続ける経済」だと表現できる。GDPの絶対額よりも、一人あたりの豊かさや実質賃金が維持できるかどうかが、暮らしの体感を左右する指標になっていくだろう。

もう一つ見落とせないのが、円と海外経済の存在だ。日本の企業や家計はすでに多くの資産を海外に持ち、企業収益の相当部分を海外市場から得ている。人口が減る国内市場だけを見れば縮小に見えても、海外での稼ぎを取り込む「グロス・ナショナル・インカム型」の経済へと重心が移っていくと考えられる。2035年には、円相場の水準や海外景気の波が、これまで以上に家計の物価と資産価値に直結するようになっているだろう。

賃金と物価 ── 実質賃金プラスが「当たり前」になるか

2026年時点で日本経済の最大の転換点は、賃金と物価がそろって上がる状態が続き始めたことだ。2026年の春闘では連合集計で平均5.09%、300人未満の中小組合でも5.00%という高い賃上げ率で妥結し、名目賃金は上昇基調にある。一方で物価上昇率は落ち着きに向かい、2026年度は名目賃金の伸び+2.55%に対し消費者物価の伸びが+2.11%となり、実質賃金がわずかにプラス(+0.44%程度)へ転じる見通しが示されている。

問題は、この「実質賃金プラス」が2035年まで定着するかどうかである。筆者の見立てでは、可能性は五分五分よりやや高い、と考えられる。理由は二つある。第一に、深刻化する人手不足が、企業に賃上げを迫り続ける構造的な圧力になること。第二に、値上げを消費者が受け入れる社会通念がすでに広がっており、企業が原材料費や人件費を価格に転嫁しやすくなっていることだ。

ただし楽観はできない。年3%前後のベースアップを毎年続けられるのは、価格決定力を持つ大企業と一部の中堅企業に偏りやすい。2035年には、賃上げが続く「上がる側」の労働者と、価格転嫁できず賃金が伸び悩む中小・非正規の「上がりにくい側」との差が、いまより鮮明になっている可能性が高い。実質賃金がプラスかマイナスかという全国平均の議論以上に、「どの業種・どの規模で働くか」が生涯賃金を大きく左右する時代になると予想される。

労働力不足384万人時代 ── 人手不足がお金の流れを変える

2035年のお金の流れを最も強く規定するのは、深刻な労働力不足だと考えられる。パーソル総合研究所と中央大学の「労働市場の未来推計2035」によれば、2035年には1日あたり約1,775万時間、人数換算で384万人相当の労働力が不足する見込みだ。これは2023年の不足規模の約1.85倍にあたる。就業者の総数自体は定年延長などで増える一方、65歳以上の高齢就業者が57%増える形で辛うじて支えられる、という構図である。

この人手不足は、家計と企業双方のお金の使い方を変える。まず、人が集まらないサービスの価格は上がり続ける。介護、運送、建設、飲食、宿泊といった労働集約型の分野では、2035年には「価格が高いから利用を控える」「そもそもサービスが提供されない」という場面が地方を中心に増えると予想される。人件費の上昇が価格に乗る以上、これらは今後の物価を押し上げる根深い要因になる。

一方で企業側は、人を雇う代わりに機械やソフトウェアに投資する動きを強める。省力化投資は2020年代後半から加速しており、2035年にはセルフレジや無人店舗、自動運転バス、AIによる事務処理の自動化などが「珍しくないもの」になっているだろう。人手不足は苦しさであると同時に、生産性向上投資という大きなお金の流れを生む転換点でもある、と考えられる。

労働力の希少化は、働く側の交渉力も静かに変えていく。人材が足りない以上、企業は賃金だけでなく、勤務時間の柔軟性、リモートワーク、副業の許容といった「働きやすさ」でも人を奪い合うことになる。2035年には、週休三日制や勤務地を選べる制度が一部業種で広がり、一つの会社に勤め上げるのではなく複数の収入源を組み合わせる働き方が、いまより一般的になっている可能性が高い。個人にとっては、稼ぎ方の選択肢が増えると同時に、自分の労働力をどこに配分するかという「時間の投資判断」が問われる時代になると予想される。

財政と社会保障 ── 家計が向き合う「見えない負担」

個人のお金を考えるうえで避けて通れないのが、財政と社会保障の行方だ。財務省の資料が繰り返し指摘するように、日本の政府債務残高の対GDP比はG7のなかでも突出して高い水準にある。少子高齢化に伴い社会保障関係費が税収の伸びを上回って膨らみ続けており、社会保障支出の対GDP比は将来的に大きく上昇していくと見込まれている。

内閣府の中長期試算では、力強い成長が実現すれば基礎的財政収支(プライマリーバランス)は一時的に改善するものの、成長が伴わない「現状投影」に近いケースでは、2030年代後半にかけて再び赤字方向へ振れる姿が描かれている。2035年はちょうどその分岐点にあたる時期だと言える。

家計にとって重要なのは、この負担が「増税」という分かりやすい形だけでなく、社会保険料の引き上げ、医療・介護の自己負担割合の見直し、給付水準の抑制といった「見えにくい形」で表れやすいことだ。額面の賃金が上がっても、そこから差し引かれる税・社会保険料が増えれば、手取り(可処分所得)の伸びは目減りする。2035年には、「名目賃金は上がったのに手取りが増えた実感が乏しい」という声が、いまより一般的になっている可能性が高いと考えられる。

負担の配分をめぐる世代間の議論も、2035年にはより先鋭化しているだろう。膨らむ社会保障を支えるのは現役世代だが、その現役世代の頭数は減り続ける。給付を受ける高齢者が人口の3割を超えるなかで、「支える側」と「支えられる側」のバランスをどう取り直すかは、政治の最大のテーマであり続ける。全世代型社会保障への移行、能力に応じた負担、資産を持つ高齢者への応分の負担といった議論が、増税・保険料・給付見直しという具体的な制度変更として、2035年前後に相次いで現実化していく可能性が高いと考えられる。

個人のお金の守り方 ── 2035年に向けた家計の備え

ここまでの予想を踏まえると、2035年に向けて個人がとるべき方向性は比較的はっきりしている。第一に、インフレが定着する前提で資産を持つことだ。物価が年2%前後で上がり続ける世界では、現金だけで持ち続けることは実質的な目減りを意味する。2024年に拡充された新NISAやiDeCoといった制度を通じ、国内外の株式や投資信託などで長期・分散の資産形成を続けることが、これまで以上に合理的になると考えられる。

第二に、「稼ぐ力」への投資である。人手不足で賃金が上がりやすい分野と、そうでない分野の差が広がる以上、リスキリング(学び直し)によって需要の高いスキルへ移動できるかどうかが、生涯の手取りを大きく左右する。AIを使いこなす能力、対人ケアの専門性、専門職の資格などは、2035年においても価値を保ちやすい方向だと予想される。

第三に、社会保障の「自助部分」を早めに準備しておくことだ。公的年金や公的医療・介護は2035年も存続するが、給付の水準や自己負担は今より厳しくなる可能性が高い。若いうちからの資産形成と健康維持は、将来の支出を抑える最も確実な「投資」になると考えられる。2035年の日本経済は、全体としては低成長でも、備え方次第で家計の明暗が分かれる時代になるだろう。

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